邦坊さんの縁起物<第1期>
| 企画展
ユーモアあふれる寿ぎの世界
邦坊さんの縁起物
自分で持って良し、家に飾って良し、贈り物にしても良し!
邦坊さんの縁起物は、絵馬や版画や色紙など、お正月になると飾りたくなるものばかり。年賀状は、書く楽しみ、送る楽しみ、貰う楽しみ。みんなが嬉しい新年のグリーティングカード。平成最後の年はどんな一年にしましょうか。さあ、邦坊さんが作り出したユーモアあふれる寿ぎの世界へようこそ!
第1期 2018年12月1日(土)~2019年2月11日(月)
第2期 2019年3月1日(金)~5月6日(月)
9:00~17:00(入館は16:30まで)
<休館日> 水曜日、年末年始12月31日(月)1月1日(火)1月2日(水)
展示替え期間 2019年2月12日(火)~2月28日(木)
<入館料> 一般500円、65歳以上の方・身体障害者手帳等をお持ちの方は300円、小中高大生・無料
はじめに
年末になると聞こえてくる「来年の干支は…」というフレーズ。干支は、中国から伝わった年の数え方「十干十二支」の略語です。この正式名称や由来などはあまりよく知られていませんが「子」を「ねずみ」、「丑」を「うし」といったような読み方は私たちの耳にも馴染み、自分の生まれ年の干支を知らない人はないことでしょう。年末に干支ものが登場すると年の瀬を感じ、新年を迎えると新たな気持ちになるものです。私たちの1年の終わりと始まりを見守る干支の縁起物。12種類の干支の動物は、画題になることも多く和田邦坊も様々な作品を残しています。本展は、縁起物を手掛かりにしてマルチクリエーターの邦坊が手掛けた絵画、絵馬、版画、広告、デザインなどを紹介いたします。平成31年(2019)は、亥年。邦坊の干支になります。どうぞ猪突猛進に生きた邦坊のユーモアあふれる寿ぎの世界をお楽しみください。
和田邦坊遺愛の年賀状コレクション
遺愛の年賀状と題したコレクションは、邦坊の自宅で晩年まで保管されていたものです。企業や個人から送られた年賀状はもちろんのこと、邦坊自身が書き損じたものや送り損ねた年賀状も含まれています。年賀状は、住所録や思い出の品として残しておくこともありますが、邦坊の年賀状コレクションは、自身がデザインした年賀状ばかりを残していることから、どちらかというと思い出の記録ではなく作品の記録として手元においていたようです。
邦坊と年賀状
お正月の挨拶状として送られる年賀状。賀詞と呼ばれる祝いの言葉と干支などの縁起物が
デザインされています。邦坊が手掛けた年賀状は、自身がプロデュースした店用だけでなく個人からの依頼も受けており、自分用も含めて毎年さまざまな図柄を作っていました。自宅用の年賀状をみると、邦坊のプライベートな一面をみることができます。昭和35年(1960)の年賀状は、ネズミの親子が登場しています。眼鏡をかけているのは父親ネズミですが、これは邦坊自身がモデルとなっています。また、抱えているのは長男の子ネズミです。「今年は子ねずみ鍛錬時代にはいりました」という言葉が添えられており、今年もよろしくという年始の挨拶だけでなく、子育てに奔走している近況や子煩悩な父親の様子などを想像することができます。
邦坊と絵馬
年末年始のお楽しみ。それは、縁起物を(粗品のプレゼントで)いただくこと。干支の小物は、毎年頂くものを決めている、というお宅もあるかもしれません。また、定番の縁起物をみることで年の瀬を感じる…という方も少なくないはずです。邦坊は、この「年末年始のお楽しみ」を巧みに取り入れて数々の縁起物をプロデュースしています。代表的なものは、干支をデザインした絵馬です。これは、お客様にお渡しする年末年始のノベルティとして作られ、名物かまど、白栄堂、民芸城山などの店が用意していました。神社やお寺に捧げる絵馬は、縁起を担いだお守りのような存在で、一年中楽しめる邦坊作品として人気を集めていました。
邦坊と色紙絵
干支の色紙絵は、昭和32年頃から始まった年末恒例の作品です。これは販売用ではなくお世話になった人への贈答品として準備していたようです。四国新聞文化賞を受賞した昭和41年11月の新聞記事をみると、ちょうど色紙を描いているところが取材されています。部屋いっぱいに色紙を広げて一枚一枚彩色している邦坊の姿が写っており、一人でコツコツと用意していたことが分かります。色紙の製作について、次のようなコメントも残しています。
また恒例の色紙描きが始まる。何時の頃から年末になると、友人知己に贈る新年掛けの干支の色紙を描くのである。それがどうしたことか年毎に数が増えて行くので、描くことが億劫になる。もう止めよう、もう止めようと思いながら今年で一廻りがすんで二廻りにかかっている。『日本の民芸1月号』日本工芸館1969
このように、回を重ねるごとに大変な思いをしていたようですが、貰った人の気持ちを想像すると、直筆の色紙絵はとても贅沢な頂きものであり、新しい年を迎えるに相応しい縁起物だったことでしょう。
邦坊と亥
邦坊の生まれ年は、亥年です。群れることなく猪突猛進に走り抜ける亥の姿をみると、邦坊の生き方そのものが描かれているようです。亥の作品には、好んで取り入れている賛(画の余白に入れる言葉)があります。「降る雪や明治は遠くなりにけり」は、中村草田男(1901-1983)の俳句です。明治生まれの邦坊にとって、遠い昔を懐かしむ気持ちは、年の瀬の寂しさにどこか似ていたのかもしれません。また、川端茅舎(1897-1941)の俳句「しんしんと雪降る空に鳶の笛」も好んで使っていました。「しんしんと」とは、降り積もる雪の音を表現する言葉です。雪原のなかを荒々しく疾走する亥。静かに1年の出来事を振り返り、新しい年に向けて強く突き進みたいという決意が込められているようです。
邦坊が描く十二支の楽しみ方
絵描きの邦坊にとって、年末年始は一番仕事が忙しい季節でした。プロデュースしている店舗やお世話になっている人から注文を受けて年賀状をデザインしたり、年始のノベルティ用の絵馬の図案を考えたり、知人・友人に贈るための色紙絵を製作したり。自分用の年賀状も書かなければいけないし、この時期だから売れる干支モノの民芸品も作りたいなどなど。東京時代の多忙な生活と比べると少しは気持ちが楽だったのかもしれませんが、盛りだくさんの企画に追われていたようです。毎年、様々な工夫を凝らした作品を生み出していましたが、干支を一巡してしまうと、12年前はどんな絵にしたのだろう、と前回の作品を見返すことも多かったといいます。
邦坊と松竹梅
縁起物の松竹梅は、画家が好んで描く画題であり、クライアントから注文を受ける定番の画題でもあります。邦坊も多種多様な松竹梅の作品を残していますが、それぞれ普段の生活のなかで目にしていたモチーフでした。勤務先の栗林公園では、一年を通して青々と繁る松があり、北庭には春の訪れを可憐に伝える梅林も広がっています。在職中は、毎日のように園内をスケッチし、讃岐民芸館の館長室で制作に励んでいました。また、挿頭丘にあるアトリエも竹林に囲まれており自然豊かな環境で過ごしていました。このように、身近に松竹梅の植栽があったため、自然と画題にすることも多かったようです。そして、邦坊は「松竹梅は今も変わらぬ庶民の信仰美である」といい、日本の代表的文様を絵画だけでなくデザインにも取り入れています。
(随筆紹介)明治は遠くなりにけり
朝からチラチラ粉雪が振りかけていたのだが、だんだん白さを増していって、昼頃からおおきな塊のぼたん雪になった。琴平山が空とのけじめを消して白一色の雪景になった時、私は廊下の何時もの椅子に掛けて、股倉あぶりのまま、この雪景色を眺めていた。去年の夏、私の版画と交換に私の好きな俳人中村草田男に頼んでいた短冊を、やっと手に入れることが出来た。それが、私の今いる廊下の柱にかかっている。私は雪に見入っていた眼をその短冊の字に移した。降る雪や明治は遠くなりにけり と、草田男らしい真正面な字である。降る雪、これはどうしてもぼたん雪でなくてはいけない。しんしんと降りしきるぼたん雪をジッと見詰めながら、ああ、あの華やかな明治という時代も遥か遠い昔になってしまったのかという詠嘆の詩である。明治時代を知らない若い人にはピンと来ない俳句だが、私達の時代の者には何ンとも言えない懐かしい思いがするのである。私は幾度もこの俳句を口ずさみながら、子供の頃のことをあれこれと思いめぐらして、今降っているぼたん雪の中から、金モールや官女の緋袴など、はでな明治の江戸絵を繰り拡げて見たりした。あの頃の世相のおだやかさ豊かさというようなものが、あの頃の人たちの生活のはしばしに滲み出ていて、それを今の、然かも戦後の世のさまから見たら、遠い夢のような生活である。和田邦坊『俺が女房にゃ髭がある』 妙義出版 昭和31年より
リスト
1 染付大皿・梅 / 陶芸 / 1 点 /
2 縁起物・玩具コレクション / 小物 / 10 点 /
3 今年は子ねずみ鍛錬の時代に入りました / 年賀状 / 1 点 / 昭和35年(1960)
4 昭和四十七年 賀正 子 邦坊 / 年賀状 / 1 点 / 昭和47年(1972)
5 賀春 / 年賀状 / 1 点 / 昭和47年(1972)
6 賀春 / 年賀状 / 1 点 / 昭和59年(1984)
7 牧童の笛吹かねば吾子なれば親は出し / 年賀状 / 1 点 / 昭和36年(1961)
8 賀正 名代つづらそバ / 年賀状 / 1 点 / 昭和48年(1973)
9 賀正 / 年賀状 / 1 点 / 昭和60年(1985)
10 賀正 / 年賀状 / 1 点 / 昭和60年(1985)
11 老虎なれば千里を走らず悠々自適 / 年賀状 / 1 点 / 昭和37年(1962)
12 賀正 / 年賀状 / 1 点 / 年代不明
13 賀正 一九七四 / 年賀状 / 1 点 / 昭和49年(1974)
14 賀春1974 / 年賀状 / 1 点 / 昭和49年(1974)
15 今年も平和な草原でありますようにアーメン / 年賀状 / 1 点 / 昭和38年(1963)
16 昭和五十年 賀春 つづらそバ / 年賀状 / 1 点 / 昭和50年(1975)
17 昭和五十年 賀春 名物かまど / 年賀状 / 1 点 / 昭和50年(1975)
18 昭和五十年 賀春 名物かまど / 年賀状 / 1 点 / 昭和50年(1975)
19 昭和三十九年 げい春 元旦 / 年賀状 / 1 点 / 昭和39年(1964)
20 賀春 昭和五十一年 昇り龍 / 年賀状 / 1 点 / 昭和51年(1976)
21 賀春 昭和五十一年 元日 玉とり姫・座像 / 年賀状 / 1 点 / 昭和51年(1976)
22 昭和五十一年 玉とり姫・立像 / 年賀状 / 1 点 / 昭和51年(1976)
23 迎春 昭和五十二年 元日 / 年賀状 / 1 点 / 昭和52年(1977)
24 迎春 巳年 昭和五十二年 元日 / 年賀状 / 1 点 / 昭和52年(1977)
25 降る雪や明治は遠くなりにけり 賀春 / 年賀状 / 1 点 / 昭和41年(1966)
26 賀春 戌午 / 年賀状 / 1 点 / 昭和53年(1978)
27 元日 迎春 昭和五十三年 / 年賀状 / 1 点 / 昭和53年(1978)
28 迎春 昭和戌午 名物かまど / 年賀状 / 1 点 / 昭和53年(1978)
29 賀正 / 年賀状 / 1 点 / 昭和54年(1979)
30 賀正 1979 / 年賀状 / 1 点 / 昭和54年(1979)
31 賀春 昭和巳未 / 年賀状 / 1 点 / 昭和54年(1979)
32 賀正 / 年賀状 / 1 点 /
33 賀正 名物かまど 荒木屋 / 年賀状 / 1 点 / 昭和43年(1968)
34 昭和四十三年賀春 / 年賀状 / 1 点 / 昭和43年(1968)
35 賀春 観音寺の白栄堂 / 年賀状 / 1 点 /
36 賀正 / 年賀状 / 1 点 /
37 賀春 昭和四十四年 元日 / 年賀状 / 1 点 / 昭和44年(1969)
38 賀正 / 年賀状 / 1 点 / 年代不明
39 名菓観音寺白栄堂 酉 / 年賀状 / 1 点 / 年代不明
40 鶏 / 年賀状 / 1 点 / 昭和56年(1981)
41 春棋 昭和四十五年 元日 / 年賀状 / 1 点 / 昭和45年(1970)
42 賀正 福や / 年賀状 / 1 点 / 昭和45年(1970)
43 迎春 壬戌 / 年賀状 / 1 点 / 昭和57年(1982)
44 賀春 壬戌 / 年賀状 / 1 点 / 昭和57年(1982)
45 賀正・吾に子を得たれば物のあわれぞ知りにける / 年賀状 / 1 点 / 昭和46年(1971)カ
46 賀春・名菓観音寺 白栄堂 / 年賀状 / 1 点 /
47 亥 / 年賀状 / 1 点 /
48 侍と亥 / 年賀状 / 1 点 / 昭和46年(1971)
49 風炉先屏風 / 年賀状 / 1 点 /
50 小槌 / 小物 / 1 点 /
51 干支・子の絵 / 額装絵画 / 1 点 / 昭和59年
52 雪原を走る亥 / 額装絵画 / 1 点 /
53 七福神 / 額装絵画 / 1 点 /
54 闘鶏 / 額装絵画 / 1 点 /
55 逢福 / 額装絵画 / 1 点 /
56 戌 / 額装絵画 / 1 点 /
57 龍 / 額装絵画 / 1 点 /
58 画材道具 / 画材道具 / 1 点 / 昭和30~50年代
59 パイプ / 小物 / 1 点 / 昭和30~50年代
60 絵付曲げわっぱ / 小物 / 1 点 / 昭和30~40年
61 色紙絵・梅 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和49年
62 襖絵・墨竹図 / 襖絵 / 1 点 /
63 我が春も 上々吉よ 梅の花 一茶 / 色紙絵 / 1 点 /
64 和気笑迎春 / 色紙絵 / 1 点 /
65 無題 / 色紙絵 / 1 点 /
66 莵子望月 / 色紙絵 / 1 点 /
67 竜王得雲 / 色紙絵 / 1 点 /
68 逢福 丁巳 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和52年
69 無題 / 色紙絵 / 1 点 /
70 和尚年尊 己未 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和54年
71 和気兆豊年 / 色紙絵 / 1 点 /
72 今日好晴 / 色紙絵 / 1 点 /
73 元日や上々吉の浅黄色 / 色紙絵 / 1 点 /
74 こがらしや野河の石をふみわたる 蕪村 / 色紙絵 / 1 点 /
75 子 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和59年
76 丑 / 色紙絵 / 1 点 /
77 寅 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和61年
78 卯 / 色紙絵 / 1 点 /
79 辰 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和51年
80 巳 / 色紙絵 / 1 点 /
81 午 / 色紙絵 / 1 点 /
82 未 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和54年
83 申 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和55年
84 酉 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和56年
85 戌 / 色紙絵 / 1 点 /
86 亥 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和58年
87 色紙絵・木箱 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和30~50年
88 (写真パネル)色紙絵を描く邦坊 / パネル / 1 点 / 昭和41年11月3日
89 福馬 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和41年
90 寅 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和25年
91 老拳不妄発 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和49年
92 竹虎図 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和49年
93 春来草自生 / 色紙絵 / 1 点 /
94 出世福寿 / 色紙絵 / 1 点 /
95 万象之中独露身 / 色紙絵 / 1 点 /
96 (参考資料)張子人形 / 小物 / 1 点 /
97 猪の図 / 軸絵 / 1 点 /
98 亥 四季絵 / 四季絵 / 1 点 / 昭和46年
99 亥 色紙絵 / 色紙絵 / 1 点 /
100 亥年の年賀状 / 年賀状 / 1 点 / 昭和34年・昭和46年
101 新聞広告 / 新聞 / 4 点 / 昭和55~58年
102 こんぴら絵馬 / 絵馬絵画 / 1 点 /
103 四季絵 / 四季絵 / 1 点 /
104 絵馬(大) / 絵馬絵画 / 5 点 / 昭和54~58年
105 絵馬(小) / 絵馬 / 12 点 / 昭和51~59年
106 こんぴら樽・絵馬 / 絵馬絵画 / 1 点 / 昭和40~50年代
107 《戌》 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和45年
108 亥《降る雪や明治は遠くなりにけり》 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和46年
109 子《子年の春を祝う》 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和47年
110 丑《横綱牛》 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和48年
111 寅 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和49年
112 卯 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和50年
113 辰 / 色紙絵 / 1 点 / 昭和51年
114 絵馬(大)甲子 きのえね/こうし / 絵馬絵画 / 1 点 / 昭和59年
115 暖簾 / 暖簾 / 1 点 / 昭和30~50年代