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琴平・虎屋旅館へ探検だ!

コロナ禍で先行きを思うと不安ばかりですが、こんな時だからこそ基礎研究を積み重ねていきたいと思います。今日は、念願の調査先・虎屋旅館についてブログに綴りました。


「虎屋そバ」(香川県仲多度郡琴平町)は、金刀比羅宮の参道にあった「虎屋旅館」が開業したお店です。かつて「さぬきこんぴら夜ともなれば虎屋桜屋かけ行燈♪」と民謡で唄われていましたが、昭和45年(1970)に旅館を廃業。「瀬戸内海に夢の大橋が完成すれば金比羅宮参拝者が旅館に宿泊しなくなる…」という経緯から、親族にあたる邦坊にプロデュースを相談して蕎麦屋へと生まれ変わりました。

うどん県で「蕎麦」で勝負!



邦坊自身、うどんが好きだったとよく耳にしますが、どうして香川県で蕎麦屋の開業を推したのでしょうか。それは「蕎麦懐石はあるが、うどんには懐石はない。虎屋の歴史を繋ぐためには、庶民的な味ではなく、格式ある料理をださなければいけない。」という理由があったそうです。また、うどん店であふれている香川県だからこそ、蕎麦屋の存在は話題となるだろう、そのような狙いもあったのかもしれません。創業時は、香川県内だけでなく蕎麦屋業界でも注目されており、専門雑誌で次のように紹介されています。

お店の改築設計は讃岐民芸館長の和田邦坊画伯である。調和された感覚の優雅な民芸調で、温和な雰囲気をかもし出す照明に、客席の配置も店内装飾も格調高く、店頭に置かれた角行燈の風流さなど、そば屋にして最高のお店と言えよう。中野沙代子「そばの旅=香川県のうどん・そば=」『新そば』(No.30)蕎麦新社、昭和45年

取材のたびに「虎屋そばは伝統を伝えるたたずまいを生かし、和田邦坊画伯(讃岐民芸館館長)がデザインされた重厚な落ちつきと安らぎをたたえた素晴らしいお店である」と、蕎麦の味だけでなく内装にも高い評価を受けていました。そして、地元のジャーナリストも「和田邦坊画伯のデザインになるその店舗も、わたしは全国に誇り得るものであると信じている」と、邦坊の仕事について絶賛を繰り返し、当時のグルメ雑誌や随筆に必ず「虎屋そバ」の名前を挙げています。
 
ちなみに、雑誌『新そば』の編集長・中野沙代子氏は「そば博士」といわれるほど業界の有名人でした。実は、多度津町出身で和田邦坊との親交も深く「虎屋そバ」のプロデュースにも力を貸してくれていたのかもしれません。



さて、今回の調査先は「虎屋そバ」の前にある「虎屋別館」です。こちらは、旅館時代の別館で前の天皇陛下(皇太子時代)も宿泊したことがある場所です。所有者のご厚意によりまして、非公開の宝物館にお邪魔しました。

版画作品《鯉幟り》


宝物館は、こんぴら歌舞伎の期間だけ一般公開している施設です。主な展示品は、虎屋旅館時代の調度品や古美術品で、和田邦坊の絵画やお盆、マッチ箱も紹介しています。一番の大作は、2枚の版画作品です。所蔵者からは「この作品は《鯉幟り》をテーマにしていて、2枚で1組の作品になる。どの部屋か分からないけれど旅館時代は大広間に展示していたのだと思う。」と説明を受けました。

右側の作品は、赤色と黄色の大きな鯉の姿、そして周りを囲むお団子のような子供たち?の表情がなんとも可愛いらしい作品です。また、版画の特徴を活かした黒い縁取りやカラフルな彩色は、ステンドグラスのようなポップさを彷彿させます。左側の作品は、笑顔の人、栗林公園の赤橋(らしきもの)、丸亀城(もしくは高松城)、お遍路姿の旅人、屋島のような山の姿が広がっています。邦坊の木版画にしては、あまり見かけない大きい作品です。額縁のせいなのか重厚感もありますが、ポップな色使いや描かれている登場人物たちもキャラクターのように愛らしく、親しみが持てる作品でした。

邦坊デザイン、続々


展示室を見渡すと、チラホラと邦坊の作品がありました。箸袋は、旅館時代のもの。虎屋そバの箸袋と少し違うデザインで、旅館時代の方が張子寅のような姿です(^^)緑色の札は「虎屋そバ」からいただいたものですが、こちらも旅館時代の荷物札です。裏面に客の名前と部屋番号を書いて、荷物の管理をしていたそうです。猫みたいな虎で可愛いですね!


おわりに

琴平界隈は、邦坊が生まれた町・戻ってきた町ですが、まだまだ調査は進んでいません。この夏も暑いようなので屋外活動はやや控えたいところですが、聞き取り調査はしていかなければ…と思っています。 やや年配の方に「和田邦坊のことを調べています」と声をかけると「私は先生と会ったことがある」「お風呂やさんでおはなししたことがあるよ」など、貴重な証言が続々です。なかなか時間がない日々でしたが、いまのこの時間を有意義に使って研究を進めていきたいと考えています。



おまけ

美術館が所蔵する虎屋旅館時代の絵葉書をご紹介。 かつて、琴平の土産物として旅館を描いた絵葉書を販売していました。木版画の絵葉書は商品であり、邦坊の作品ですが、直筆によるスケッチや簡単な下絵、そして彩色された原画もあり、作品の制作過程がわかる貴重な資料が残されています。


虎屋木版画絵葉書・表紙

虎屋木版画絵葉書・表紙の下絵

虎屋木版画絵葉書・本家虎屋

虎屋木版画絵葉書・本家虎屋・下絵

虎屋木版画絵葉書・とらや別館

虎屋木版画絵葉書・とらや別館・下絵