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包む-日本の伝統パッケージ 目黒区美術館


目黒区美術館「包む-日本の伝統パッケージ」展

現在(2021年8月現在)、東京にある目黒区美術館では「包む-日本の伝統パッケージ」展が開催されています。展覧会は、パッケージデザインの研究者である岡 秀行氏のコレクションで構成したものです。岡氏は、すでに亡くなりになっていますが目黒区美術館に寄贈したパッケージコレクションが10年ぶりに公開されます。


(参考)2011年前回の展覧会のチラシ

今回の展覧会チラシ(裏)をご覧ください。実は、和田邦坊がデザインしたお菓子の包装紙が掲載されます。「鬼づら」は、かつて東かがわ市で生産されていた生姜で味付けした砂糖菓子で、鬼の顔(ツラ)のように豆がゴツゴツと入っていたことから「オニヅラ」という名前が付いたようです。包装紙は、鬼の絵を描いているわけではなく、真っ赤な下地の背景と黄色の〇、そして邦坊の味のある「鬼づら」という文字で構成されています。そして、紙の包装紙で包んだあとに藁縄で十文字に結ぶところがパッケージのポイントです。岡氏の『TSUTSUMU』のなかでは「194 鬼づら=菓子=香川県。優雅さと洗練を競う京都の菓子とは対照的に、いかにも土着的、庶民的なデザインが心を惹く。色彩の大胆奔放さ、文字の素朴さ、単純ななわの結びが調和して傑作といえよう。」という解説があります。京都の雅さと比較して田舎らしい庶民的な図案ということで注目されていました。

(参考) 
http://direction-q.com/works/graphic/%E5%8C%85%E3%82%80%E3%83%BC%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%AE%E4%BC%9D%E7%B5%B1%E3%83%91%E3%83%83%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B8%E5%B1%95/  より転載

さぬき寒川 木村本舗 さぬき名産 鬼づら


さぬき名産 鬼づら 包装紙(当館資料)

残念ながら販売していた木村本舗はなくなりましたが、岡氏が蒐集していた「鬼づら」だけが当時の形態を知る唯一の資料となります。(当館は「鬼づら」の包装紙は収蔵していますが包んだ状態の資料はありません)

「君不老」「クンプロ―」


その他、岡氏の著作物『日本の伝統パッケージこころの造形』にも「鬼づら」は紹介されています。岡氏は、素材や材質、そして土地柄を表現したデザインに注目しており、デザイナーが誰であるかは重要視していませんでした。おそらく邦坊の存在も知らないまま収集し、最期までコレクションとして大切にしていたようです。また、コレクションのなかには邦坊がデザインした「君不老」という商品も収集されています。こちらも今は販売していません。琴平町で生産していた滋養強壮剤として売り出されていたもので「君不老」と書いて「クンプロ―」と読みます。美術館には、邦坊が作った「君不老」の栞を収蔵しています。天狗の伝説という琴平らしい物語(由来)があり、パッケージの素朴さと調和しています。岡氏は、香川県に来て「君不老」を購入したわけではなさそうですが(おそらく東京で開催した物産展で香川の商品を買ったのだと思いますが)、栞の文章も読んでいたらもっと香川の物産品を買い漁っていたかも?しれません。ともあれ、岡氏のコレクションと数々の著作物、そして数々の展示会によって、和田邦坊のデザインは次の研究へと繋がり、海外の美術館でも展示されるようになります。このような先人の積み重ねによって当館の研究も支えられています。

終わりに


さて、10年ぶりのコレクションの公開は、大変待ち焦がれていた展覧会です、、、時期が時期なので東京に行く勇気が持てませんが、コロナの終息を願って香川で開催の様子を見守りたいと思います。ああ残念、無念・・・!

包む-日本の伝統パッケージ 目黒区美術館
2021年7月13日(火)~2021年9月5日(日)
https://mmat.jp/exhibition/archive/2021/20210713-358.html

せめて最新の図録を読んで展覧会に思いを馳せたいと思います。

参考文献

岡秀行『日本の伝統パッケージ』美術出版社 昭和40年
岡秀行『包 TSUTSUMU』毎日新聞社 昭和47年
岡秀行『日本の伝統パッケージ こころの造形』美術出版社 昭和49年

『日本のパッケージデザイン その歩み・その表情』昭和51年
『made in japan 1950-1944 世界に花開いた日本のデザイン』サントリーミュージアム[天保山] 平成8年 
『包 日本の伝統パッケージ、その原点とデザイン』目黒区美術館、令和元年