お昼寝している鐘馗さん?
| 作品・資料紹介
邦坊がよく描いた画題は、松竹梅。海や山などの讃岐の風景、お遍路さん。
民芸調の河童、天狗、民家、長屋門。
動物系は、猫よりも犬派。縁起物の干支が好き。
神仏系でいうと、釈迦誕生仏、地蔵、不動明王、そして…
鐘馗さん!起きて、起きて!
和田邦坊《鐘馗と鬼》灸まん美術館所蔵
定番の画題が多いなか、少し変り種の作品《鐘馗と鬼》をご紹介しましょう。鐘馗といえば、邪悪なものや疫病から家を守る魔除けの神として屋根の上に鎮座する姿が有名です。そして、絵画の世界では邪悪な小鬼を退治する勇猛な場面が定番の形になります。しかし、邦坊の作品をみると鐘馗は戦うどころかゴロンと転がって昼寝をしています。あろうことか、敵である小鬼が心配そうに横から覗き込んでいます。起こしてしまうと争いが始まってしまうし、あまりにも気持ちよさそうに寝ているので、そっとしておいてもいいような…見るものをそんな気持ちにもさせてしまう、1コマ漫画のような作品です。邦坊は、この“お昼寝している鐘馗さん”を絵画だけでなく一閑張の調度品にも図案として取り入れており、お気に入りの画題として使っていました。
参考 和田邦坊《一閑張・鐘馗と鬼》なりわい資料館所蔵
邦坊は、松竹梅など王道の画題も好んで描いていましたが、このように伝統的な画題に遊び心を加えた作品も数多く制作しています。格調あるテーマも邦坊の手にかかるとユーモア満載の画面に大変身してしまうところは、見どころであり邦坊芸術の面白さといえます。また、登場人物から新しい関係性を想像させて、見るものに物語の続き託してしまう漫画チックなところも憎めません。やはり、元ネタを使って独自の作風を構築するという手法は、時事漫画家で培ったセンスであり、画家・和田邦坊の武器なのかもしれません。
追伸・王道の画題でかっこいい鐘馗さんも描いています 和田邦坊《鐘馗》灸まん美術館所蔵