藪椿も見ごろの季節・・・
| 作品・資料紹介
桜と同じく藪椿も見ごろの季節となりました。
先日ドライブしていると、美しく咲き、潔く散る藪椿と出会いました。
いまが見ごろの藪椿
《藪椿》昭和40~50年代
対の作品ではありませんが、同じタイトルの絵画を2点並べて展示しました。画題は冬から春にかけて咲く藪椿です。藪とつく椿なので園芸品種の可愛らしい椿ではなく、ワイルドに山中で自生するツバキ科の樹木になります。花は、手に収まるくらいの小ぶりな大きさですが、樹木の高さは10mを超す種類もあります。邦坊は、よく道なき道を歩いてスケッチに出かけていました。山中で出会った藪椿は、画家の初心も忘れさせてしまう美しさがあり、何枚も何枚も同じ画題で椿を描き続けています。
椿の紅に心動けり
《椿襖絵》昭和30~40年代
椿をモチーフにした連作。縦長の画面のなかに、大きく余白を残しつつ一枝に繁る椿が美しく描かれています。
邦坊が描く絵画には、中村草田男、種田山頭火、正岡子規、松尾芭蕉、小林一茶などの俳人・歌人たちの作品が賛(絵の余白に書かれた文字のこと)として登場しています。邦坊も辞書や全集を読みながら句作に励んでいましたが、あまり自分の句を採用していません。しかし、椿を描くときだけは自作の「慾去りし 我と思えど陽だまりの 椿の紅に心動けり」を繰り返し使っています。邦坊は、健康と引き換えにして東京時代の成功を得たと考えており「世の中は名誉でもなく金でもない、精神的な安定が一番大切である」「一切は空である(すべての欲がなくなった)」と何度もインタビューで語っていますが、句のなかでは椿をみると心が動かされ欲がでてしまったと歌っています。画家として「この花を描きたい」という画欲が生まれたということでしょうか。椿の紅は、無欲の境地に立っていた画家の心も動かした美しさでした。
君老いず「椿」のごとし・・・?
椿襖絵部分
艶やかな椿の葉は1年中緑色を絶やさず、凛と咲く花の姿は衰えない美しさを表現しているといわれています。
椿は、邦坊が合言葉にしていた「君不老如花」を想起させる花です。