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邦坊が綴る「味な世の中」

展覧会タイトルの四方山噺


2022年の新春から始まった「味な世の中―和田邦坊の眼差しー」。展覧会タイトルは、邦坊の著書物から拝借しました。正式な表題は『シークレットライブラリー②味な世の中』といいます。こちらは、邦坊が発表した記事をダイジェスト版でまとめた本になり、あまり市場にも出回っていない貴重な1冊です。今回の展示では本自体の公開はしていませんが「序」と「扉絵」をパネルで紹介しています。中身は、すでにリリースされた作品(東京日日新聞に連載した東海道漫画旅など)になりますが「序」に関してはこの本の読者のために邦坊が書き下ろした文章になります。

企画展・味な世の中―和田邦坊の眼差し―
第1部 2022年1月2日(日)~5月8日(日)
https://kyuman.art/event/exhibition/entry-415.html

邦坊が綴る「味な世の中」




味な世の中とふ、面白い言葉だ。ニヤリと笑つても苦笑であつても面白い。
懐を肥やしても失戀しても味な世の中さ。何かしな世の中が味氣なく乾びて詰まらなくなつて、薬味をたづねて外へ出る。向ひの二階の窓が開いて娘がこつちを見て微笑んた。これで唐辛し位の味がつくぢやないか。外へ出ろ、皆んな外へ出ろ。大方の味な世の中は往来にある。―だがね、人生四十の聲を聞かなくちや本當の味な世の中のその味は分からないんだろさ。


和田邦坊『シークレットライブラリー味な世の中』漫談社、昭和5年
 

外へ出ろ、皆んな外へ出ろ


この本が発行された年は昭和5年。邦坊、御年31歳になります。東京日日新聞の記者として採用された翌年にリリースされた本になります。(※これまでの研究では、邦坊は大正15年に東京日日新聞に就職したと発表していますが、実際は昭和4年に採用されています)単行本がでるほど、すでに売れっ子作家として活躍していますが、まだまだ世の中を味見しているような軽やかな文章。序の「外へ出ろ、皆んな外へ出ろ。大方の味な世の中は往来にある」というフレーズが妙に気に入っています。ちょうどコロナ禍ということで鬱々とひきこもる日々。ピリッとした日常を求めて私も早く外に出たいな…と思ってしまいました。



ちなみに『シークレットライブラリー②』とあるように、前作は別の作者の作品を刊行していたようです。3作目は『シークレットライブラリー③尖端猟奇集三等列車中の唄』だとか。ダイジェスト版の出版は売れっ子の証なのかもしれません。

奥付にも注目!


奥付にある編集者からの言葉もなかなか面白いのでご紹介。邦坊については「漫畫界の異彩邦坊氏」と呼んでおり「巻中には東日紙上を賑はせたものも多少あるが、勿論、邦坊氏の漫畫漫文は、三面記事のそれのように讀み棄てられるべきものではない。再讀三讀、噛み締められるべき味がある。その他には、初期のものもあるが、却つて作者の愛して居られる作ばかりであるから、讀者の期待に酬ひるに充分であらう。」と人気ぶりを讃えています。新聞に掲載した邦坊の漫画は、読み捨てるには惜しい、何度読み返しても読みごたえのある言わせるほど編集者までも魅了していたようです。個人的に邦坊の文章は声にだして読むと深みが増すように思います。世の中を往来して様々な「味」を堪能してきた邦坊。その作品たちをぜひ展示でもご賞味ください。

企画展案内


企画展・味な世の中―和田邦坊の眼差し―
第1部 2022年1月2日(日)~5月8日(日)

今回はフォトスポットになる展示スペースが3か所あります。寒いのですが展示室は暖かくしておりますので、皆様のお越しをお待ちしております。

企画展の詳細はコチラ!
https://kyuman.art/event/exhibition/entry-415.html